【次代のスターへ】〝アリナミンの亜莉奈〟勝負のプロテストへ

女子ゴルフでプロテストに挑む林亜莉奈(21)を追いかける企画の第2弾です。

プロを目指す選手たちが競う「マイナビネクストヒロインゴルフツアー」が始まり、第1戦は6オーバーの44位タイ、第2戦は22位タイと上位には入れていません。

ただ、一時はイップスにも悩んだアプローチは、タイで行ったゴルフ合宿で特訓した成果が出始め、先の見通しは明るいといいます。

次代のヒロインを目指す若手選手の今をリポートします。

ゴルフ

◆林亜莉奈(はやし・ありな)2002年(平14)9月6日、愛知・名古屋市生まれ。5歳からゴルフを始め、長野県ジュニアゴルフ選手権3連覇、PGM世界ジュニアゴルフ選手権で優勝などの戦績を残し、2017年NEC軽井沢72ゴルフトーナメントではベストアマ賞。昨年のマイナビネクストヒロインゴルフツアーは初戦で2位など7戦でトップ10に入った。165センチ。A型。

充実のタイ合宿

最近、仲間から「アリナミンさん」と呼ばれているという。

名前の亜莉奈(ありな)と、アリナミン製薬が発売しているドリンク剤「アリナミンV」など、疲労回復を目的とした人気シリーズとかけている。

「アリサと間違えられることもあるのですが、『アリナミンの亜莉奈です』といえば、確実に覚えてもらえますね」

名前を覚えてもらうため、自己紹介を工夫したのだろうか。

「いえ、本当にアリナミンから付いた名前なんですよ。亡くなった父がアリナミンに関わる仕事をしたことから、決まったそうです。漢字は当て字だと聞きました。アリナミンで元気になるという意味も、きっとあるんだと思います」

2月13日から28日までの15日間、タイで行ったゴルフ合宿で、石井忍コーチや、仲間たちに名前の由来を語ったところ、すっかり定着した。

読者の皆様も、ぜひ「アリナミンの亜莉奈」で覚えてほしい。通常、記事は名字表記だが、この連載も亜莉奈で続けていきたい。

タイ合宿でキャディーと記念撮影する亜莉奈(右=本人提供)

タイ合宿でキャディーと記念撮影する亜莉奈(右=本人提供)

さて、そのタイ合宿は、ゴルフ漬けの日々を送った。朝8時からスルーでラウンドし、昼食後は暗くなるまで練習場でボールを打ち続けた。

亜莉奈はアプローチ練習場で、短い距離の練習を繰り返した。高校3年の秋頃からアプローチのイップスに陥り、一時期は約20ヤードを転がして寄せようとして、空振りをしてしまったこともあった。

「もちろんミスはありますけど、ミスの原因は理解できるようになりました。どういう動きをしたら、どんなミスが出るのか。以前は『何でだろう?』とパニックになって、怖くて打てなっていましたが、そういう状態はなくなりましたね」

始めの数日は芝の上から打っていたが、石井コーチに「バンカー内から打って練習してみよう」と言われた。

通常のバンカーショットは砂ごと打っていくが、芝の上と同じように打つ指示だった。

「私は、右サイド(後方)が下がる悪い癖があります。右肩が下がったり、右膝が曲がりすぎる。それでは砂を打ってしまうし、打たない手元で合わせるとトップする。ダフりもトップも出てしまうんです」

最初はまったく当たらなかったが、練習を繰り返しているうちに、思い通りにショットできる球が出てきた。

「うれしかったですね。何十球に1球しかないんですけど、やった~と。合宿期間だけで克服できておらず、今も練習は続けていますけど、少しずつ成功の感覚が残るようになってきました」

アプローチでカップインの動画はこちらから

ドライバーショットの動画はこちらから

昨秋から石井コーチに指導を受けるようになってから、目標や課題が明確となり、よりゴルフに対して前向きになった。今回の合宿も収穫が多かった。

「費用は大変でしたけど、行ってよかった。こんなに充実して、内容の濃い2週間は初めてでした。ゴルフが楽しくて、ずっとやっていたいと思ったぐらいです。大会初戦も、今か今かと楽しみにしていたんですが…」

仲間とタイの夕焼けを眺める(右が亜莉奈=本人提供)

仲間とタイの夕焼けを眺める(右が亜莉奈=本人提供)

プロを目指す選手たちが競う「マイナビネクストヒロインゴルフツアー」の開幕戦は、4月16、17日に千葉・成田GCで開催された。

亜莉奈は初日がアウト42、イン34の76で4オーバー。最終日はアウト39、イン35の74と2オーバー。通算6オーバーで44位に終わった。

「2日間ともアウトのロングで大たたきしました。3番で続けて池と林に入れてしまい、6番ではOB。このミスで、ドライバーが振りにくくなってしまいました」

技術的な成長は感じているが、コース上で、ふとした時に過去の悪いイメージが…イップスに悩んだ時期の記憶がよみがえってしまうという。

「そこをどう克服するか、まだ模索中なんです。意識しないのも難しいし、記憶を消すこともできない。すっきりする答えを出せていないのが現状です」

トレーニングの指導を受けている平野佳人トレーナー(ひらの接骨院院長)は、亜莉奈から相談を受けてアドバイスを送った。

平野トレーナー

平野トレーナー

「ラウンド中の意識をアドバイスしました。話を聞くと、ラウンド中も体の細かい部分を意識しているというんです。本来は無意識に動く部分を細かく意識すると、スムーズなスイングの妨げになる場合があります。だから自分の内部ではなく、外部…ボールの飛ぶ方向やクラブの振りなどに焦点を当てた方がいいと言いました」

要するに「肘はこう動かし…」「股関節はこう動き…」などと個々の部分で考えすぎ、全体の動きに支障が出てしまうのだという。平野トレーナーは自身の感覚だけでなく、いくつかの研究結果を示して助言したという。しばらくすると、練習ラウンドで試した亜莉奈から「ノーボギーで上がりました」と報告がきたという。

トレーニングではゴムチューブを使い、慣性のままに振る動きを取り入れた。

「手で余計な動きをすると軌道が変わってしまうから、ゴムチューブがスムーズに振れていれば手が邪魔していないわけです」

平野トレーナーは、亜莉奈がイップスに悩んでいる時期も相談に乗っていた。トレーニング中も会話を交わしながら、亜莉奈のメンタル面も気にかけている。

「ポテンシャルが高い選手で、高い意識を持ってゴルフに取り組んでもいます。手ごたえと自信を持ってプロテストに臨めれば、きっといい結果が出ると信じています」

タイ合宿でのラウンド(右が亜莉奈=本人提供)

タイ合宿でのラウンド(右が亜莉奈=本人提供)

5月1日から、プロテストの受験申し込みが始まった。亜莉奈は、早速申し込みを終えたという。

テストは7~8月に第1次予選を行い、上位者が9月の第2次予選へ進み、さらに11月に最終プロテストが実施される。合格すれば12月1日から日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)に入会となる。

亜莉奈は言う。

「タイ合宿が充実していて、ずっとああいうゴルフだと楽しいんですけど、試合やテストになるとプレッシャーもかかるし、結果も出ますからね。でも、それがゴルフですよね。結果を出して、応援してくれる方々に喜んでもらいたいです」

イップスに悩んでいた頃、練習生として所属する宍戸ヒルズカントリークラブの総支配人から「いつか、この苦しい時期があって良かったと思える日がくるよ」と励ましてもらっていたという。

その日は、少しずつ近付いてきている。

◆飯島智則(いいじま・とものり)1969年(昭44)生まれ。横浜出身。93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。

編集委員

飯島智則Tomonori iijima

Kanagawa

1969年(昭44)生まれ。横浜出身。
93年に入社し、プロ野球の横浜(現DeNA)、巨人、大リーグ、NPBなどを担当した。著書「松井秀喜 メジャーにかがやく55番」「イップスは治る!」「イップスの乗り越え方」(企画構成)。
日本イップス協会認定トレーナー、日本スポーツマンシップ協会認定コーチ、スポーツ医学検定2級。流通経大の「ジャーナリスト講座」で学生の指導もしている。