「周囲には大先輩が多数おられる。我々は、まだまだひよっこですから。これから10年、やってみたいこと、挑戦したいことに取り組みたいんです」

この言葉を発したのは、吉本新喜劇の川畑泰史(56)と、漫才コンビ「矢野・兵動」の兵動大樹(53)。ともにNSC(吉本総合芸能学院)9期生で芸人としてのキャリアは30年を超える。

大阪市内のカラオケボックスで行われた「この先10年プロジェクト」の発表イベント。2人のおっちゃんは、少年が将来の夢を語るように笑顔があふれていた。

同期芸人として、ここまで生き残ってきた自信と友情。2023年3月、川畑が新喜劇の座長を勇退したことで2人のプランは加速した。

「やってみたいことをいろいろ話し合いました。結果、一緒に芝居を作っていこうやないかと。吉本新喜劇とか、漫才とかの枠を取っ払って、舞台で芝居を10年やってみたい」と川畑。

そして6月14~16日、大阪・ABCホールで第1回公演「なれない」を上演するところまでこぎ着けた。

慣れ親しんだなんばグランド花月(NGK)ではなく、共演陣も初めての若手中心。脚本・演出は、大阪芸大在学中で劇団餓鬼の断食を立ち上げた川村智基氏。関西演劇祭2023でベスト演出賞に輝いた俊英だ。

慣れないメンバーとの共同作業。おじさん2人にとってはアウェー感満載だが、実はそれさえ楽しんでいる様子をうかがわせる。

兵動は「演出の川村さんと初めて会って『若い!』と驚いた。50代の我々が苦しみながらも、必死でチャレンジする姿を見てほしい」。

兵動は「無謀だ」「もっと痩せないと」という声を背にしながら、ことし2月の大阪マラソンにエントリーした。仕事と並行して数カ月の練習を積んだが、結果は30キロ地点でタイム制限のため途中リタイア。体は悲鳴をあげ、足は棒のようになったが「ひそかにやってみたかったことを実際にできたのがうれしい。しんどいだけやと思われますが、マラソンがこんなに楽しかったなんて」と新たな喜びを発見した。

演劇の共同作業とは別に「マラソン楽しいで。走る?」と、兵動に誘われた川畑は「それだけは無理」と即断った。

マラソンでは意見が分かれたが「ここから10年間、走り続ける」という2人の思いは同じ。まずは6月の初公演。それは第1歩に過ぎず、先は長い。還暦を乗り越えてドリーム完走へ。長寿社会を象徴する挑戦でもある。

「10年間、なにより健康でいてください!」記者からのリクエストに、おじさんコンビは笑顔でこたえた。【三宅敏】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

第1回公演「なれない」を発表した(左から)兵動大樹、川畑泰史、演出の川村智基
第1回公演「なれない」を発表した(左から)兵動大樹、川畑泰史、演出の川村智基