メジャーリーグでは開幕早々、エース級投手たちの故障が大きな話題となっている。

昨季のサイ・ヤング賞右腕、ヤンキースのゲリット・コールが右肘の違和感で開幕に間に合わなかった。開幕後は20年サイ・ヤング賞でガーディアンズのシェーン・ビーバー、ヤンキースの救援右腕ホナタン・ロアイシガがトミー・ジョン手術を受けると発表された。昨季両リーグ最多20勝を挙げたブレーブスの右腕スペンサー・ストライダーも右肘靱帯(じんたい)の損傷が判明し、手術が懸念されている。3年連続2桁勝利中のフランバー・バルデス投手(アストロズ)も、肘の炎症で負傷者リスト入りした。

MLB選手会は、今季から有走者時に20秒から18秒に短縮されたピッチクロックが原因ではないかと、にらんでいる。「選手が全会一致で反対し、健康と安全に関する重大な懸念があったにもかかわらず、コミッショナーは昨年12月、ここ数十年で最も重要なルール改正からわずか1シーズンでピッチクロックの時間を短縮した。それ以来、回復時間の減少による健康への影響に対する懸念は強まるばかりだ。この重大な変化の影響を認めようともせず、研究しようともしないリーグの姿勢は、試合そのものとその最も貴重な財産である選手たちにとって、かつてない脅威である」と声明を出した。

これを受け、右肘手術のリハビリ中であるドジャース大谷翔平投手も、珍しく懸念を示した。「レスト(休息)リカバリー(回復)というか短い時間で多くの仕事量をこなすのは、負担自体は間違いなくかかっていると思う」。昨年はピッチコムを使用し、シーズン途中からほぼ全投球で自らサインを出していた。捕手からのサインに首を振っていては間に合わない。これも、ピッチクロックへの対応策だった。

試合時間短縮のためピッチクロックの時間短縮を先導した米大リーグ機構は、肩と肘への影響は、ピッチクロックだけが原因だけではないと反論した。「肘手術の増加はこの数十年間の傾向であり、球速と回転率の増加に連動している」。今年、エース級投手の故障が異常に増えていることには正面から答えていないが、この傾向は確かだ。

先発投手の投球回は年々減少しており、平均球速は上がっている。23年は94・2マイル(約151・6キロ)と、初めて94マイル台に突入した。13年は92・7マイル(149・2キロ)だから、10年間で2・4キロも速くなった。つまり、短いイニングで全力投球している。大谷は「自分のベストのボールを投げ続けなければいけない。手を抜くではないですが、軽く投げていくシチュエーションは先発ピッチャーでもなかなか少ないと思う」と語っている。打者のレベルは年々上がっている。投手に対する粘着物の取り締まりも厳しくなった。極端な守備シフトも禁じられた。長い回を投げるために、ピンチ以外や下位打線で、力をセーブすることが難しくなっているのだ。

速い球を連発すれば、肩や肘への負担は増える。大谷も「球速との因果関係が結構強いと思う。しょうがない部分があるので1試合の中でマネジメントしていく方が、けがをしない観点で大事かな」と語っている。

米メディアには「投手枠があだとなっている」との見方もあった。投手は13人までベンチ入りできるが、これを減らすべきという主張だ。投手が少なければ、必然的に先発投手が長いイニングを投げざるをえなくなる。そうなれば、投手は常に全力投球することを避けるはずだという3段論法だ。逆療法のようで、興味深い。

10年間、選手会の代表を務めてきたコールは、米ヤフースポーツによると、選手会と大リーグ機構の両方の主張を聞き、意見を述べた。「私は答えがわからないが、両方の声明にあるような黒と白の問題ではないということだ」。そして、付け加えた。「ロブ(マンフレッド・コミッショナー)は選手について、本当に深く心配することが彼の仕事だ」。

大谷をはじめとした、スター投手たちの相次ぐ故障は、球界にとって大きな損失だ。故障してもトミー・ジョン手術(内側側副靭帯=じんたい=の再建手術)をすればいい、といった考えにはなってほしくない。選手は人間であって、機械ではない。個人的には試合時間短縮のためにピッチクロックには賛成なのだが、実際に球場でメジャーリーグの試合を見ていても、テレビ観戦していても、18秒は明らかに短い。ピッチクロック違反が多発している。MLBには、再考を求めたい。【斎藤直樹】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「斎藤直樹のメジャーよもやま話」)

大リーグのピッチクロック(2019年撮影)
大リーグのピッチクロック(2019年撮影)