ドジャース大谷翔平投手(29)の元通訳・水原一平容疑者(39)の犯行の全貌が連邦捜査当局によって明らかになったが、それは実に驚きの内容だった。

2年以上の間、1日平均25回も賭け、総額1600万ドル(約24億円)以上の預金を盗んで胴元に送金していた。口座に不正アクセスした手法は、大谷がメジャー1年目に入ったばかりのときにキャンプ地アリゾナ州で銀行口座を開設した際、同容疑者が手助けをしたことが発端。口座情報を取得し、その後に口座にひも付けていた電話やメールを勝手に自分のものに変更し、代理人らのアクセスも本人の意思だとうそをついて拒否していたというのだから悪質だ。

水原一平容疑者(2024年2月撮影)
水原一平容疑者(2024年2月撮影)

大谷にとっては大変つらい出来事で人生でも最大級の試練になったと思うが、大谷の潔白が証明されMLBはほっとしている。

そしてもう1つ心底ほっとしているのが、水原容疑者は違法のスポーツ賭博はしていたものの野球には賭けていなかったことが判明したことだった。4月11日にカリフォルニア州ロサンゼルスの連邦検察が大谷の潔白と水原容疑者の銀行詐欺罪での訴追を発表し、その訴状が公開されたが、その中に記録されていた水原容疑者と違法賭博の胴元マシュー・ボーヤー氏とのメールのやりとりには、野球に関する言及は1つもなかった。内容は終始、同容疑者からの賭け金額の上限引き上げのお願いと、胴元の借金取り立ての連絡に終始。野球賭博をしていなかったことに関してクリアとなり、ニューヨーク・ポスト紙のベテラン記者ジョン・ヘイマン氏もX(旧ツイッター)で「みんなイッペイをボロクソに言うが、野球には賭けないという自制心を持っていたことはほめられる」と冗談交じりに評していた。

ドジャース大谷翔平と水原一平容疑者(2024年3月12日撮影)
ドジャース大谷翔平と水原一平容疑者(2024年3月12日撮影)

MLBにとって今、スポーツ賭博は何とも微妙な問題だ。数年前からリーグや球団が大手のスポーツ賭博業者と提携するなどビジネスとして拡大を図りつつあり、ナショナルズやカブスなどの本拠地球場にはスポーツ賭博ルームも開設されている。健全な正規のスポーツ賭博は、違法賭博業者のそれとは分けて考えなければならない。

もちろん、選手や球団、リーグ関係者は野球に賭けることを禁じられている。たとえ正規であっても、賭博業界関係者はオッズを決める関係などもあり、チームや選手の情報を何とか得ようと必死になって接触してくる場合もある。MVPやサイ・ヤング賞も賭けの対象になるので、投票権を持つ記者が接触され、しつこく聞かれて困るなんてこともある。全米野球記者協会はそうした業界関係者は排除する姿勢なのだが、ビジネスとして拡大する中でのこの攻防は、かなりやっかいな問題になっている。【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「水次祥子のMLBなう」)