大谷なら夢の3冠王が可能かもしれません。ドジャース大谷翔平投手が開幕から絶好調です。4月24日時点で打率、安打、二塁打、長打、塁打、長打率、OPS(出塁率+長打率)の打撃7部門でリーグトップに立ちました。中でも、最大のサプライズは、メジャートップの打率と安打です。

今季メジャーで最もハードヒット(時速95マイル=約153キロ=以上の打球)の多いバッターが、まるで一流のコンタクトヒッターのように空振りや三振が少なく、これだけ高い打率を残し、多くのヒットを量産することに驚きを隠せません。

昨年からメジャーは新ルールとして極端な守備シフト規制が導入され、特に左の強打者である大谷にとって大きな恩恵を受けたと考えられます。その結果、昨年はア・リーグ最多の44本塁打で初のタイトルを獲得し、なおかつ同4位の打率3割4厘をマークしました。

しかし、今年はさらに投手の平均球速が上がったため、メジャー全体の打率が前年の2割4分8厘から2割4分0厘と大きく低下。これは1968年の2割3分7厘以来、最も低いアベレージとなり、“投高打低”の傾向が強くなっているといえます。

こうした状況の中で持ち前の長打力を思う存分に発揮しながら、メジャートップの高打率を残すのは並大抵のことでありません。そこには1番打者ムーキー・ベッツが相手投手に多くのボールを投げさせて、3番フレディ・フリーマンが援護砲の役割を果たしていることも決して見逃せません。

まだ本格的なシーズンが始まって1カ月しかたっていませんが、これほど高い打率を残すと、シーズン前から話題になっていたように、本当に3冠王の可能性も出て来そうな気がします。もし大谷が3冠王を取るとしたら、最大の難関は首位打者でしょう。

すでにホームランはタイトル獲得の実績があり、フル出場すれば50本の大台も可能。また、エンゼルス時代の6年間に1度しか100打点はありませんでしたが、何かと話題になっている得点圏打率が上がれば打点も増えそうです。

日本選手でイチロー以来となる首位打者誕生の可能性もあるかもしれません。なぜなら、昨年6月まで4割を打ち、異なるリーグで初の2年連続首位打者を獲得し、今季も首位打者の大本命と見られているルイス・アラエス(マーリンズ)が、意外にも打率低迷しているからです。

ただし、1920年にメジャーで打点が公式記録として採用されて以来、ア、ナ各リーグで3冠王に輝いたのは10人、のべ12人しかいません。そのうちア・リーグが7人、ナ・リーグはたったの3人だけです。また、ア・リーグで2012年にタイガースのミゲル・カブレラが3冠王を達成したのに対し、ナ・リーグは1937年カージナルスのジョー・メドウィック以来、実に87年間も3冠王が誕生していません。

それだけに、大きな価値ある偉業といえます。最近では21年にブルージェイズのウラジーミル・ゲレロJr.、22年にヤンキースのアーロン・ジャッジ、カージナルスのポール・ゴールドシュミットが、惜しくもシーズン終盤で3冠王獲得を逃しました。いずれも最終的に打率が一番の壁となりました。まだシーズンはこれからですが、バッターにとって最大の夢である3冠王への挑戦も、大いに注目していきたいと思います。

【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)