京都サンガの若き主将、MF川崎颯太(22)が、オンラインで交流した石川県の被災地の子供たち、その気持ちを背負い、今夏のパリ五輪(オリンピック)…そしてA代表デビューへ向け、決意を固くしている。

プロ2年目の21年から、同僚のMF松田天馬(28)とともに、ホームタウンの子供たちにサッカーの楽しさを伝えることを目的にした小学生の大会「TENMA SOTA CUP」を開催。松田から誘われ「僕もサッカー選手に憧れる1人の少年だった。大会を開くことで、子供たちがプロを目指すきっかけになってほしい」と二つ返事で参加を決めた。

実際、ヴァンフォーレ甲府のジュニア(U-12)に所属していた時代、プロの選手は憧れの存在だった。練習を見に行った際、トップチームの選手から「こっちにおいでよ」と声をかけられ、一緒にボールを蹴ったことが、今でもうれしい記憶として残っている。

そして今は、自分自身がプロサッカー選手となり、A代表招集経験を持つまでになり、子供たちから「川崎だ!」と憧れのまなざしを受けている。

「参加した1年目は、自分もまだまだだったので。誰? ぐらいの反応でしたけど(笑い)。京都もJ1に上がって、みんなも分かってくれますし。自分に興味を向けてくれる。自分も頑張ったかいがあったなと思いますし。J1に居続けて、自分が活躍することが大事なんだなと思いました」

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松田と川崎が開催している大会は、全国に輪がある。浦和レッズDF宇賀神友弥(35)北海道コンサドーレ札幌FW鈴木武蔵(30)湘南ベルマーレDF岡本拓也(31)アビスパ福岡MF前寛之(28)も、それぞれのホームタウンで大会を開催している。

3月3日には、各地域の優勝チームが集う「HEROES CHAMPIONSHIP」が福島のJヴィレッジで行われた。

今回は、元日に発生した能登半島地震で被災した七尾市の「セブンフットボールクラブ」も招待された。会場となったJヴィレッジは、東日本大震災で大きな被害を受けながらも、復興を遂げた東北のサッカーの聖地だ。

七尾市の子供や保護者、チームスタッフに復興への希望を持ってもらうことも招待の理由の1つだった。

全チームの大会参加に当たる交通費、宿泊費は大会側が負担。鈴木が社会貢献活動の推進で「22年のHEROEs AWARD」を受賞し、日本財団HEROEsが協力してくれたことも大きかった。

各選手は、シーズン中のため会場に駆けつけることこそできなかったものの、川崎、宇賀神、岡本、鈴木がオンラインで参加した子供たちと触れ合った。

七尾市の子供たちは地震の前は週4回、練習していたが、被災後3週間は活動できず、今も練習場が使用できないため公園でボールを蹴る日々を送っていた。今回の大会があったからこそ、七尾市の少年少女は再びサッカーに向き合うことができた形だ。

川崎は「小学6年生の子供にとっては、小学校の最後。苦しい状況の中で福島県に行くのは、なかなかできない経験。この大会を経て、もっとサッカーをやりたい、サッカーが好き、と気付いてくれる子供が1人でもいれば、この大会の意義がある」と力を込める。

オンライン交流会の中でも、日々の練習における意識の大切さを子供たちに伝えた。川崎も、甲府のジュニアに在籍していたころ、日々の練習から1つ1つのプレーや練習に「どうしてうまくいったのか」「どうしてうまくいかなかったのか」を考えながら練習を積み重ねてきた。

「ジュニア時代は毎週のように関東遠征に行って、強いチームに勝つためには日々の練習だと体感していた。常にこれはどういう意図を持った練習なのか、頭を使って練習していました」と自身の経験を挙げ「質やこだわりの意識は自分でしか変えられないので、そういうところは大事にしてほしい」と思いを託した。

交流後、伝え聞いた。大会スタッフを通じ、参加した七尾市の子供たちが最高の笑顔でサッカーをしていたこと、七尾セブンフットボールクラブの吉田泰代表が「小学生の最後に素晴らしい遠征になりました。東日本大震災の地が復興している姿を見ることができて明るい希望が持てました」と話していたこと。

それだけに「僕も経験したことがないことで、全てを理解することはできませんが、そういう状況でも夢を見ることは諦めないでほしいですし、その夢がサッカー選手であれば、なおうれしい」と目を細めた。

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七尾市をはじめ、各地域の150人の子供たちとオンラインで触れ合い、川崎は実感していた。自身の中で、プロサッカー選手としての使命が、さらに燃えていることを。

「まずは自分の夢のために五輪は出たいし。A代表にも、もう1回入って、次はデビューしないといけないと思います。大会を通じて子供たちからの応援がより分かりましたし、甲府、京都、応援してくれる人の思いを乗せて、彼らの思いを背負いながら、五輪に出たいという気持ちも芽生えました。五輪に出て活躍するぐらいじゃないと、その後の長い記憶には残らないと思うので。五輪、W杯に出た選手と会って写真を撮った、と子供が自慢してもらえるぐらいの活躍はしたいなと思います」

サッカーができる幸せをかみしめながら、子供たちの思いを胸に、パリ、A代表定着への道を突き進む。【岩田千代巳】