そうなのか? と少し驚いた。この日、甲子園を埋めた観衆は4万2606人だった。これは今季最多の数字である。GWが終わり、日常が戻ってきたその初日に、3週前の巨人戦よりも、週末のデーゲームよりも多くの観客が入ったという。連日、大入り満員の甲子園とはいえ、結構、不思議な感じだ。

「正直、特に理由はないと思います。あえて言えば、レフトのビジター席を広島ファンで埋めてもらったことが大きいのかもしれません」。球団の営業関係者はそう話す。以前と違って、すっかり人気カードになった広島戦の恩恵もあって、盛り上がるはずのナイターではあった。

だが、その前で阪神打線は沈黙してしまう。広島の床田から島内、栗林のリレーの前に無得点で今季4度目のゼロ封負けを喫した。試合の流れもよくない。実質エースの村上頌樹が奮闘したが、名手となった中野拓夢の2失策が失点となり「失点2、自責0」。防御率は0点台となったが、やはり、白星につなげたい。

打線は7回、そして8回となんとかヤマ場はつくった。7回は2死二、三塁から代打・原口文仁が死球。満塁としたものの、村上の代打に立った小野寺暖が遊飛に倒れた。8回も1死満塁から佐藤輝明が代わった島内から見逃し三振。さらに森下翔太も二ゴロに倒れ、チャンスを逃したのだ。

それぞれが精いっぱいプレーしているのは分かるが、打線としてなかなか突き抜けることができない。こういうとき、かつての阪神なら「誰かおらんのか」などとすぐファームの戦力をチェックしたもの。

それに従えば…。この日、広島との2軍戦(由宇)で井上広大がキラリと光った。4番・右翼でスタメンで出ると、これがデビュー戦となった広島ドラフト1位・常広羽斗也が投じたフォークを左翼席へ運んだ。これが4号。打率も3割2分6厘に上昇している。

昨年、日本一に輝いた阪神。現在の1軍戦力はほぼ不動の状況だ。実際に首位にもいるし、ここに新戦力が割って入ることは簡単ではない。簡単に「使ってみれば…」などとは言えないのが現実だろう。

それでも1軍キープしている前川右京と同様、開幕前には指揮官・岡田彰布が期待していた井上である。ベンチにいれば、ひょっとして刺激を与えてくれるのでは…などと一人で物思いにふける夜になった。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神井上広大(2024年4月23日撮影)
阪神井上広大(2024年4月23日撮影)