「ミスタープロ野球」こと長嶋茂雄は特別な存在だ。昭和生まれなら言うまでもない。若くても少しでも野球に興味があるなら「知らない」ということはないと思う。日刊スポーツ大阪本社の人間なので巨人担当の経験はないし、直接、取材したこともない。それでも甲子園や東京ドームの現場で近づく機会があったときなど、他とはまるで違う緊張感を覚えたものだ。

昭和ひと桁生まれの父親は巨人を嫌い、他球団を応援していたが「長嶋だけは好きやな」と言った。こちらは世代からすれば、物心ついて野球に興味を持てば当然、知る存在。同時に知るところになったのは長嶋がデビューしたときのエピソードかもしれない。

1958年(昭33)4月5日、シーズン開幕の巨人-国鉄戦(後楽園)。巨人の鳴り物入りルーキー・長嶋は、既に球界を代表する投手だった国鉄の金田正一から4打席連続で空振り三振に倒れた。苦いデビューをバネに球界を代表する存在にまでなったということで「道徳」の教科書に載るような話かもしれない。

そこで門別啓人だ。指揮官・岡田彰布が昨秋から絶賛し、今季の目玉にしていた存在。今季はここまで中継ぎで登板させ、経験を積ませて今季初の先発だ。「デビュー」でこそないけれど実力と名前が世間に知られてからの初先発で、それも「長嶋茂雄デー」の巨人戦である。舞台は十分だ。

しかし1回、2死を取ったもののそこから炎上し、4失点。ノイジーの失策は余計だったが2回には岡本和真に2ランを被弾し、結局、6失点での降板となった。ハッキリ言ってボロボロだろう。

将来、この日の経験を「あんな目にあったんですけど…」と笑いながら話せるかどうか。それは今後にかかっている。いいなと思ったのは降板後、ベンチに座っている門別が「それがどうした」と言わんばかりの表情で平然としていたことだ。プロの投手はこうでなければいけない。

「まあ、ええ経験になったんちゃう」とは指揮官・岡田彰布だ。「もっと大胆にいかなあかんわな、腕振って」などといろいろ指摘はしていたが、これが結論だろう。

それにしても序盤で6点を失い、あっさり負けそうなものだが粘りは見せた。巨人はイヤな感じかもしれない。阪神は3連敗しなければいい東京ドーム。まずは4日の第2戦に注目だ。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

巨人対阪神 2回裏巨人2死二塁、岡本和(手前)に左越え2点本塁打を浴びた門別(撮影・足立雅史)
巨人対阪神 2回裏巨人2死二塁、岡本和(手前)に左越え2点本塁打を浴びた門別(撮影・足立雅史)
巨人対阪神 2回で6失点の阪神門別(左から2人目)を厳しい表情で見つめる岡田監督(右)(撮影・足立雅史)
巨人対阪神 2回で6失点の阪神門別(左から2人目)を厳しい表情で見つめる岡田監督(右)(撮影・足立雅史)