キャンプ--。時の流れは早いね。つい先日、一斉にスタートを切ったかと思えば、もう最終段階を迎えている。レベルアップは、各チームの成果が気になるところだが、今回は狙いを方向転換。キャンプの今と昔を比較してみるのも面白いと思い、私がプロ野球界に飛び込んだ半世紀強前(1958年)から、今日までを振り返ってみることにした。選手として直接体験した。新聞記者になって外部から中を覗いてみた。最後は阪神のフロントマンの立場で監督、コーチ、選手達と直に接しながらの経験をした。今も昔も目的に変わりはないが、球界の変化に興味を持っているファンの方もいるはず。キャンプ体験を思い出しながら筆を進めてみた。

 半世紀前、選手として体験した時代。施設の事情を考慮した方針だろうが、選手の立場からすると、どうしても仕事最優先の練習予定としか思えない日程だったのだ。キャンプである。当然の事ともいえるが、休日の扱いとなると話は別だ。雨である。朝起きて雨が降っていると、急きょその日が練習休みとなる。疲れ切っているときなどは一瞬ホッとするが、なんと、次回の休日が練習日となる。当時の休みはだいたい1週間に1度だが、予定はあくまでも予定。選手というもの、厳しいキャンプは休みの日を計算してそこに疲れをピークに持っていくように練習を進めている。そして、疲れた体を癒やす大事な1日にしているものだが、その後の休みも後ろへずれていく。気持ちの切り替え、結構大変でしたし、自分勝手に予定を入れることもできなかった。

 あの頃、雨天練習場はなかった。雨が降っている日に体を動かそうとしたら、キャンプ地の学校の体育館を借りるしかない。練習らしい練習ができないことを考えると、休日の変更も致し方ないところ。この時点で方針にクレームがつくまでに至らなかった。

 現在のキャンプはというと、3日か4日から5日に1度の休みを入れている。休日の日取りが一定していないのは各チームが力を入れているファンサービスの表れ。土曜日、日曜日、祝日にはたくさんのお客さんが来場してくれる。チームとしては少しでも多くのファンに楽しんでもらいたい。ファンは神様です。キャンプ中の週末、祝日は意識して休みを避けているのはそのためです。いまや、雨が降っても各キャンプ地にはピッチング、バッティングが十分出来るだけの室内練習場が設置されている。屋外とそれほど遜色ない練習ができる。休みを変更する必要もなくなった。選手にとっては1つの不満材料が解消された。これで自分の予定が立てられるが、もうキャンプ地の雨天練習場は必要不可欠になった。

 休日が固定された。キャンプの日程が予定通りとなると、選手達に次なる要望が頭を持ち上げた。休日のゴルフである。要するに、キャンプの疲れを取るべき日のゴルフだ。無理から来る故障が怖い。さあどうする。ちょうど私が広報担当で阪神に復帰した頃だった。当時の安藤監督らといろいろな角度から検討した。あの頃の阪神、長い間優勝から遠ざかり、マスコミから叩かれやすいチームだった。考えれば考えるほど拒否する方向に向かってしまうが、ある日、一大決心した。「どうせ彼ら、休みの日は麻雀かパチンコをしているはず。そんな体に悪い事をしているぐらいなら、ゴルフしている方が健康的でいいやろ」勇気のいる決断だった。当初は多少の批判記事はあったものの、いまや、選手のよき息抜きになっている。

 20年ほど前までは、キャンプ地といえば九州か四国だった。両キャンプ地は温暖の地。現在も続けているチームもあるが、中には兵庫の明石市、静岡の草薙を利用した球団もあったが、長続きはしなかった。阪神も私が入団して3年間は甲子園球場だった。宮崎の巨人が羨ましかった。やはり体を鍛えるなら暖かいところがいい。

 日本で温暖の地といえば沖縄県である。今、やっとプロ野球界のキャンプは同県が主流になった。現在、最終的に9球団が集結しているが、各チームとも温暖の地は分かっていてもなかなか沖縄キャンプに踏み切れなかったのは、まずはアメリカの領土であったこと。そして、1972年5月15日に27年ぶりに領土は返還されたが、2月の沖縄は雨期であることだった。確かに、いくら暖かくても雨が多く、設備が整っていないところでキャンプが張れるはずがない。二の足を踏むのは当然だが国を挙げて沖縄の活性化に協力。球場を作り、雨天練習場を設けて、まずは手始めに12球団のファームを誘って“ハイサイリーグ”を開催。キャンプの誘致につなげていったと聞く。

 時は流れている。世の中のすべてが発展しながら進んでいる。体力、技術の向上に向けての強化練習も、よりベストの方法を取り入れて鍛えている。今、行われているキャンプでも60年ほど前の選手は午後3時頃にはほぼ練習は終わっていたが、今時は午後5時、6時までグラウンドに残って練習している選手がいる。さらに夕食後も夜間練習をして頑張っている。キャンプに限らず練習量は現代の選手が数段上。野球そのものが進化して当然である。我々の時代、驚異的な記録を残したスーパースターがいるが、現在でも当時と同じ戦法でペナントレースを戦えば、同等の記録を達成する選手はいる。私の持論をひと言。今と昔の選手を比較してみると、昔の人はどちらかといえば自分のための練習というか、己の個性を前面に出した練習をしていたが、現在の選手は、1つのチームというか組織の一員として取り組んでいる。そう、野球は団体競技です。一年の計は元旦にあり。果たして今シーズンはどこのチームが優勝につながるキャンプを張ったか注目したいが、キャンプもいろいろな過程を経て現在があるのだ。【本間勝】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「鳴尾浜通信」)