中日も巨人も打てないチーム。今試合は広いバンテリンドームで、投手戦になることは予想できた。前回はプロ入り最短でKOされたベテランの涌井が、しっかり立て直しているのか? 山崎伊が実力通りのピッチングをするのか? 両先発投手を注目していたのだが、予想とは少し違う形で得点が入った。

両チームとも6回まで無得点だった。そして迎えた7回表、先頭打者の岡本和が四球で出塁すると、坂本がライト前ヒット。萩尾が送って、1死二、三塁というチャンスを作った。

犠牲フライなどヒットでなくても得点できる好機ではあるが、攻撃側も守備側もいろいろな作戦が考えられるケース。勝負を分けるのは、ベンチの駆け引き。腹を据えた戦い方ができるか? 勝負どころだった。

まず、阿部監督は岸田に代打を送らなかった。好投を続けている山崎伊だけに、守りを重視して捕手を代えてリズムを崩したくなかったのだろう。ここまでは想像できる。ならば、次に考えるのはどこかでスクイズを仕掛けてくるか? 中日ベンチは初球にウエストのサインを出した。

ここは我慢してほしかった。あまりにも見え見えすぎて、阿部監督も初球スクイズのサインは出しにくかったと思う。初球にウエストしてボールになっても、一塁は空いている。無理して勝負をしなくてもいいという意向が見えた。ウエストのサインも出しやすい場面といえるが、次打者の門脇は足の速い選手。満塁になっても併殺の確率は低く、ミートもうまい。それならば、全力で岸田と勝負。スクイズで1点を奪われても、2点目はやらない。そういう腹のくくり方もあったと思う。いい投手であれば、その方が力を発揮しやすかっただろう。

結局、岸田はストレートの四球。しかしベンチが1点もやれない野球をすると、選手は焦りが大きくなる。門脇に対して2ストライクに追い込みながら、高めのストレートを打たれて1失点。2死満塁になってからも、丸に押し出しの四球を与えてしまった。1点もやれない焦りから、涌井は自滅した。

微妙な駆け引きであり、ウエストが悪いとは言わない。しかし、中日の野球は、自らを窮屈にしてしまった。その差が出たと思う。良くも悪くも阿部監督は守りに徹した。腹を据えた分、メリハリがついた野球で、選手を必要以上に萎縮させなかった。

ただ、両チームとも似たようなチームで、戦力差に開きはない。まだ前半戦であり、本当の勝負はこれから。選手が力を発揮しやすい環境をつくり、最後のラストスパートに向けてチームを整えていく。それができた方が、優勝争いできるチームになれると思う。(日刊スポーツ評論家)

中日対巨人 7回表巨人2死満塁、マウンドを降りる涌井(右)(撮影・森本幸一)
中日対巨人 7回表巨人2死満塁、マウンドを降りる涌井(右)(撮影・森本幸一)
中日対巨人 7回表巨人2死満塁、マウンドを降りる涌井(左)(撮影・森本幸一)
中日対巨人 7回表巨人2死満塁、マウンドを降りる涌井(左)(撮影・森本幸一)
中日対巨人 4回表巨人無死、佐々木を投ゴロに仕留める涌井(右)(撮影・森本幸一)
中日対巨人 4回表巨人無死、佐々木を投ゴロに仕留める涌井(右)(撮影・森本幸一)
中日対巨人 1回表、汗を飛ばし力投する中日先発の涌井(撮影・森本幸一)
中日対巨人 1回表、汗を飛ばし力投する中日先発の涌井(撮影・森本幸一)
中日対巨人 7回表巨人2死満塁、丸に押し出し四球を与えボールをトスする涌井(撮影・森本幸一)
中日対巨人 7回表巨人2死満塁、丸に押し出し四球を与えボールをトスする涌井(撮影・森本幸一)